大潮は本当に釣れるのか?
9 魚種・2.8 万件の出船データで
「潮回り神話」を検証した

「狙うなら潮が動く大潮」──釣り船の予約サイトでも雑誌でも、繰り返し語られてきた定説だ。 そこで関東〜静岡の船釣り釣果、直近 2 年・約 2.8 万件の出船データを潮回りと突き合わせてみた。 結果は意外なものだった。調べた 9 魚種のうち、大潮が 1 位になった魚種はひとつもないタチウオは「長潮・若潮だけはっきり渋い」という形で通説の半分が当たっていた一方、 マダイアジカワハギは むしろ潮が緩い日のほうが釣れている。「月夜のイカは渋い」説も最後に検証する。

どうやって調べたか

使ったのは、当サイトが毎日収集している船宿の釣果報告のうち、直近 2 年(2024 年 6 月〜2026 年 6 月)で 匹数の幅(「5〜20 匹」のような船中の最少と最多)が書かれていたもの。魚種ごとに、 最少と最多の真ん中をとった数字を「その日の 1 出船あたりの釣果」として、 出船日の潮回り(大潮・中潮・小潮・長潮・若潮)ごとに平均した。

出船数が少ないと偶然に左右されるので、対象は 5 つの潮回りすべてで十分な出船数がある人気 9 魚種に絞った。 表の「出船数」は集計に使った釣果報告の数だ。なお釣果報告そのものに混入していた記録ミス (単位の取り違えなど)は、集計前にデータ全体からクレンジング済みである。

結論の全体図

2.8 万件を集計して見えたこと
  • 9 魚種すべてで、大潮は 1 位にならなかった
  • タチウオは大潮〜小潮がほぼ横並びで、長潮・若潮だけ約 1 匹分はっきり渋い
  • マダイ・アジ・イサキ・カワハギは若潮(潮が緩い日)が 1 位。大潮はビリかブービー
  • シロギス・アマダイ・ヒラメ・マダコは潮回りでほとんど差が出ない
  • 「月夜のイカは渋い」がデータで見えるのはマルイカだけ。ヤリイカはむしろ新月前後が一番渋い

タチウオ ─ 「潮が動く日がいい」は半分本当だった

まずは通説に一番近い結果が出たタチウオから。 大潮・中潮・小潮は 1 出船あたり 12 匹台でほぼ横並び。ところが長潮と若潮だけ 11 匹台前半に落ちる。 「大潮が特別に釣れる」わけではないが、「潮の動きが小さい日は渋い」という意味では、通説は半分当たっていた。

潮回り1 出船あたりの平均匹数出船数
大潮 12.3 匹 624
中潮 12.2 匹 1570
小潮 12.5 匹 658
長潮 11.5 匹 222
若潮 11.2 匹 236

タチウオ・直近 2 年。平均は船中の最少と最多の真ん中をとった値。

マダイ・アジ・イサキ・カワハギ ─ 大潮はむしろ分が悪い

意外だったのはこの 4 魚種。いずれも若潮が 1 位で、大潮は最下位かブービーだった。 特にイサキは大潮 26.5 匹に対して若潮 31.7 匹と約 2 割の差。 カワハギは大潮→中潮→小潮→長潮→若潮と、 潮が緩くなるほど釣果が伸びるきれいな階段になった。

魚種 大潮中潮小潮長潮若潮
マダイ 2.482.542.62.472.66
アジ 36.037.737.537.440.1
イサキ 26.527.826.329.131.7
カワハギ 6.376.546.696.717.05

1 出船あたりの平均匹数(直近 2 年)。出船数はマダイ 7,548・アジ 4,619・カワハギ 2,785・イサキ 708。

ほとんど差が出なかった魚たち

シロギスアマダイヒラメマダコは、 どの潮回りでも平均がほぼ同じ。この 4 魚種については「潮回りで釣行日を選ぶ意味は薄い」というのが データからの答えになる。タコは「潮が緩い日がやりやすい」と言われるが、平均では小潮がわずかに良い程度で、 日付を選び直すほどの差ではなかった。

魚種 大潮中潮小潮長潮若潮
シロギス 48.551.148.953.849.4
アマダイ 2.652.922.622.642.69
ヒラメ 1.882.031.871.842.04
マダコ 5.785.926.145.85.37

1 出船あたりの平均匹数(直近 2 年)。出船数はヒラメ 3,183・アマダイ 3,571・シロギス 1,331・マダコ 1,398。

「船の違い」のせいではないのか? ─ 同じ船どうしで比べてみる

ここまでの集計にはひとつ落とし穴がある。たとえば「大潮によく出る船」と「若潮によく出る船」の腕や場所が 違えば、潮回りの差ではなく船の違いを見ているだけかもしれない。 そこで、5 つの潮回りすべてに 5 回以上出船している船だけに絞り、同じ船の中で潮回りごとの平均を 出してから魚種ごとにならした。

魚種(対象船数) 大潮中潮小潮長潮若潮
タチウオ(9 船) 11.812.012.010.611.1
マダイ(17 船) 3.283.343.483.093.43
アジ(14 船) 39.841.840.238.343.9
カワハギ(11 船) 6.136.26.266.236.36

同じ船の中で潮回り別に平均してから、魚種ごとにならした値(直近 2 年)。

結果、傾向は変わらなかった。タチウオは長潮が最下位、マダイとアジは大潮より小潮・若潮が上。 ただしカワハギは同じ船どうしで比べると差がほぼ消えた(6.1〜6.4 匹)。先ほどの「きれいな階段」の何割かは 船や場所の違いだった、と読むのが正直なところだ。

月齢とイカ ─ 「月夜は渋い」はマルイカだけ

最後にもうひとつの定番、「月の明るい夜はイカが散って渋い」説。出船日の月齢を新月前後・満月前後・その中間の 3 つに分けて、イカ 3 魚種で比べた。

魚種新月前後中間満月前後
マルイカ 17.7 杯21.6 杯18.7 杯
ヤリイカ 10.5 杯12.5 杯12.4 杯
スルメイカ 19.4 杯19.8 杯18.5 杯

1 出船あたりの平均杯数(直近 2 年)。出船数はマルイカ 472・ヤリイカ 526・スルメイカ 836。

マルイカは満月前後・新月前後とも中間の時期より 3〜4 杯落ちており、 「月の明暗が極端な時期は渋い」と読める。一方ヤリイカむしろ新月前後が一番渋く、満月前後は中間とほぼ同じ。 スルメイカはほぼ差なし。日中の釣りが主体の沖イカでは、 夜の月明かりの影響は思ったより小さい、というのが今回の答えだ。

なぜ「大潮神話」と逆になるのか

理屈はいくつか考えられる。コマセ釣り(マダイ・アジ・イサキ)は潮が速すぎるとコマセと付けエサが すぐに離れてしまい、同調が難しくなる。カワハギのような小さなアタリを取る釣りも、 仕掛けが流される日より緩い潮のほうが釣りやすい。つまり「魚の活性」だけでなく 「釣りの成立しやすさ」が釣果を決めていると考えると、緩い潮に分があるのは自然だ。

もうひとつは船長の腕。潮が悪い日は船長がポイントや流し方でカバーするので、 極端な差がつきにくい。「潮回りで日を選ぶより、行ける日に行って船長に乗っかる」が、 データから見えるいちばん実用的な結論かもしれない。

まとめと、読むときの注意

  • 大潮が平均 1 位になった魚種はゼロ。「大潮だから釣れる」は今回のデータでは確認できなかった
  • タチウオだけは「長潮・若潮が渋い」が船の違いを除いても残った。逆にマダイ・アジは緩い潮が優位
  • 差はいずれも 1〜2 割。潮回りより、時期・エリア・船選びのほうがはるかに効く

注意点として、この集計は船宿の釣果報告がベースだ。出船しなかった日・報告が出なかった日は 集計に入らないので、「荒れやすい大潮に無理して出た日」のような偏りは完全には除けない。 差の大きさも前述のとおり小さく、「大潮を避けるべき」と読むのも行き過ぎになる。 釣行計画の参考程度に、魚種ごとのページで時期とエリアの実績を見るのと 合わせて使ってほしい。

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